60代からのリフォームで暮らしやすい家をつくるコツ

執筆監修:杉山幸治(株式会社SOWAKA・一級建築施工管理技士)

執筆監修:杉山幸治(株式会社SOWAKA・一級建築施工管理技士)

セカンドライフの始まりを迎える60代は、子どもの独立や仕事、親の介護などがひと段落し、住まいとの関係を見直す重要な転換期となります。

夫婦での時間や自宅で過ごす時間が増えるこの時期は、より快適で充実した暮らしを実現するためのリフォームを考えるベストなタイミングと言えます。

今回は、60代以降をより豊かな人生にするための住まいづくりと、将来を見据えた準備のポイントについて実例を交えながら詳しくご紹介します。

60代からのリフォームの特徴

育児もひと段落して、時間的にも経済的にも少しずつ余裕が出てくる60代。そんな60代以降のリフォームでは、以下のような観点でプランニングが進められるケースが多いです。

断熱性・気密性の向上

断熱性・気密性の向上
二重窓にして断熱性を高めた事例

住まいの暑さや寒さから来る不快さを改善してくれる断熱性・気密性の向上は、『今の暮らし』を快適にするために優先したい要素のひとつです。

まずは窓を二重窓やペアガラスに変更する、カバー工法で外壁工事をせずにサッシを最新の気密性の高いサッシに交換するといったリフォーム工事でも断熱対策に繋がりますが、しっかりと断熱性を高めるためには、家全体を作り変えるリノベーション工事が必要になります。

家全体に工事が及ぶので、大掛かりなように思われますが、断熱対策で冷暖房効率を改善することで光熱費の削減にもつながり、なによりも快適で不満の少ない環境をリフォームで叶えられます。

浴室やトイレの機能性・安全性の向上

60代リフォーム
ランドリールームと浴室の扉を引き戸にして出入りをしやすくした事例

浴室やトイレの利便性、安全性向上も『今の暮らし』を快適にするための要素だと言えます。

浴室の扉を引き戸にして出入りしやすくしたり、床材を滑りにくいものに変更したり、浴槽に入りやすくするための高さの調整や手すりの設置をしたりと、様々な工夫が挙げられます。

最新のシステムバスの場合は断熱性能が向上していたり、お手入れが楽な工夫がなされておりメーカーもかなり考えて開発をしているのでおススメです。

また、浴室暖房を設置する事によって温度差によるヒートショック防止対策にもつながり、衣類の乾燥を兼ねながら快適になります。

トイレには、手すりを設置したり、座高を調整したりして立ち座りの負担を軽減します。また、温水洗浄便座の設置や暖房機能を追加することで快適性を高めます。

最近は、お手入れしやすく、掃除の手間が少ないトイレも増えてきていますので、将来の事を見据えてそういったトイレを導入するのも賢い選択です。

キッチンの使いやすさの改善

キッチンをIHクッキングヒーターに変更して、低い位置に収納をまとめた事例

キッチンの使いやすさ及び安全性の改善は、『今の暮らし』を快適にしつつ、『将来の安全性の向上』にもつながる重要なポイントです。

使いやすさを改善するという観点から、作業台の高さを調整し、収納の位置を低くすることで使いやすさを向上させます。

また、安全性を考慮してIHクッキングヒーターへの変更を行い、シンクの深さを調整して作業の負担を軽減します。

間取りまで変更する場合には、家事動線を短縮化することで効率的な作業空間を実現します。

バリアフリー化への対応

バリアフリーにして、幅の広い引き戸に取り換えた事例

将来への備え住宅全体のバリアフリー化への対応がリフォームの重要なポイントとして挙げられます。

玄関、和室、浴室などの段差を解消し、階段やトイレ、浴室、廊下には手すりを設置すると言った改修は60代以降のリフォームの最初の一歩、と言えるぐらい多くの方が取り入れています。

また、床材を滑りにくいものに変更し、扉を引き戸にすることで開閉を容易にしたり、将来の車いす使用を考慮して、廊下や扉の幅を拡張することを検討されるかたもいらっしゃいます。

防犯性・セキュリティ性の向上

防犯性・セキュリティ性の向上
玄関扉の開閉や開錠・施錠をボタン一つでコントロールできる操作パネル

安心して暮らせる家づくりについて考えると、防犯対策もとても大事です。

防犯・セキュリティ対策として、防犯カメラやセンサーライトの設置、二重ロックの導入、玄関ドアの強化、防犯ガラスへの交換などを行います。

玄関扉の開閉や開錠・施錠をボタン一つでコントロールできる操作パネルの設置も、防犯対策として有効です。

これらを取り入れる事で、安心して暮らせる住環境を整備します。

照明の工夫

エリアによって明るさの異なる照明を取り入れた事例

60代以上の方のリフォームにおける照明計画では、年齢による視力の変化に配慮した工夫が重要です。

全体的な明るさを確保しつつ、特に階段や段差など危険箇所は十分な照度を確保します。また、人感センサーを活用した足元照明や、手すりに組み込んだLEDライン照明で安全性を高めます

寝室やリビングには調光機能付き照明を導入し、用途に応じた明るさ調整を可能に。キッチンの作業面や浴室は特に明るく照らし、トイレには夜間用の足元照明を設置。

リモコンや音声操作にも対応し、操作性を向上させます。また、LEDの採用で省エネにも配慮。複数の光源を組み合わせることで、快適で安全な生活環境を実現します。

間取りの工夫

リフォームで手すりを設置したり、お風呂場の設備を新しくすると言った部分的な改修ではなく、フルリフォーム(=リノベーション)で家全体の間取りを変更する、という選択をする方もいらっしゃいます。

当社でも、「残りの人生を、暮らしやすくて快適な住まいに作り変えるリノベーションがしたい」というご要望にお応えするケースが多いです。

以下の図は、将来の暮らし方の変化も見据えた間取りの事例です。それぞれについて詳しく解説します。

家全体の生活動線の短縮化
生活動線の短縮化が最も重要な要素として挙げられます。特に寝室、トイレ、浴室の距離を近づけることで、夜間のトイレ使用時の負担を軽減できます。さらに、キッチンから食事スペース、リビングまでの動線も短くすることで、家事の負担を減らすことができます。

寝室の場所
寝室は1階への移設を検討することが望ましいでしょう。階段の上り下りによる身体的負担を軽減し、将来的な介護の必要性も考慮に入れた配置となります。寝室の近くには収納スペースを確保し、衣類や日用品の出し入れがしやすい環境を整えます。

リビングの広さ
リビングで過ごす時間が多くなることを見越して、十分な広さを確保することで快適さが高まります。将来の車いすでの生活を想定し、家具の配置にも余裕を持たせます。また、テラスに面して大きな窓を設置する事で、明るい窓辺のくつろぎスペースで日光浴をしながら読書や趣味を楽しむことができます。

水回り設備の集約
水回りの設備は可能な限り集約することが効果的です。洗面所、浴室、トイレを近接して配置することで、配管工事の効率化だけでなく、将来的な設備の更新やメンテナンスも容易になります。また、脱衣所を広めに設計することで、着替えの際の安全性も高まります。

出入りしやすい玄関
玄関まわりは、上がり框の段差を緩やかにし、手すりの設置スペースを確保します。また、玄関ホールは車いすの回転を考慮した広さを確保し、雨天時に濡れた傘や靴を扱いやすい工夫も必要です。宅配ボックスの設置スペースを確保することで、留守時の荷物受け取りも安心です。

収納は出し入れしやすさがポイント
収納スペースは、使用頻度に応じて適切に分散させることが重要です。日常的に使用する物は手の届きやすい位置に、季節物などは別途まとめて収納できるようにします。また、収納家具の高さを抑えることで、上下での出し入れの負担を軽減できます。

将来を見据えた空き部屋の確保
将来的な介護スペースとして、和室や予備室を確保しておくことも賢明です。普段は趣味の部屋や来客用として使用し、必要に応じて介護ベッドを置けるスペースとして活用できます。また、介護者の動線や作業スペースも考慮に入れた設計が望ましいでしょう。

屋外スペースの設置
デッキやテラスなどの屋外スペースも、暮らしを豊かにする重要な要素です。家庭菜園やガーデニングを楽しめるよう、水道設備や工具の収納場所も計画的に配置します。また、室内から段差なくアクセスできるようにすることで、安全に外部空間を楽しむことができます。

このように、60代からの間取り計画では、現在の生活スタイルに加えて、将来の身体機能の変化も見据えた配慮が必要となります。また、家族構成の変化や介護の必要性なども想定し、柔軟に対応できる余裕を持たせた間取りの設計が重要になってきます。

課題別・おすすめのリフォームプラン

60代からのリフォームについて、優先したい課題別に、おすすめしたいリフォームプランをご紹介します。

優先したい課題が『安全性の向上』の場合

室内での転倒や入浴時の事故など、日常生活で発生しうる事故の防止と安全確保を最優先事項としてリフォームやリノベーションを考えている方には、以下のような工事がおすすめです。

  • 玄関・トイレ・階段・廊下などへの手すり取り付け
  • 浴室の温度差対策(ヒートショック防止)と滑り止め設置
  • 危険な段差の解消(特に動線上の段差)
  • 照明の明るさ確保(特に階段や廊下)
  • 火災報知器や防犯システムの設置

優先したい課題が『基本的な生活の機能の向上』の場合

基本的な生活機能の向上を最優先したいと考えている方には、以下のような工事がおすすめです。

  • 使いやすい高さへのトイレの改修
  • キッチンの作業効率向上(作業台の高さ調整など)
  • 収納の使いやすさ改善(取り出しやすい位置への変更)
  • 主寝室の1階への移設検討
  • 水廻りの配置の最適化

優先したい課題が『生活の質の向上』の場合

生活の『質』の向上を最優先したいと考えている方には、以下のような工事がおすすめです。

  • 断熱性・気密性の強化
  • 冷暖房設備の効率化
  • 結露対策
  • 換気システムの改善
  • 防音対策

優先したい課題が『ゆとりのある暮らし』の場合

趣味や娯楽スペースの充実により、ゆとりある生活のための空間づくりを行います。

  • 趣味室の設置
  • 庭やベランダの活用
  • 来客スペースの整備
  • くつろぎコーナーの設置
  • 収納スペースの拡充

優先したい課題が『将来への備え』の場合

将来的なニーズに対応するための準備を最優先にしてリフォームやリノベーションに取り組みたい方には、以下のような工事がおすすめです。

  • 車いす対応の通路幅の確保
  • 緊急通報システムの導入準備
  • 同居や介護を想定した間取りの検討
  • 設備更新のしやすい構造への改修

優先課題の見極め方

優先課題は、以下のような要因によって決定したり、変動したりする可能性があります。

  1. 現在の健康状態
  2. 同居家族の有無
  3. 住宅の築年数や状態
  4. 利用可能な予算
  5. 工事の規模や期間

60代からのリフォームについてのアドバイス

住まいのリフォームをご検討中の60台前後の方とお話すると、「もうそんなに長く住むわけではないから、最低限のリフォームにとどめたい」と仰る方が少なくありません

でも、体力的にも余裕がある60代のうちに、間取りも含めた住まい全体の作り変え(=リノベーション)を行うことで、断熱性や気密性を含めた住宅の基本性能を総合的に向上させることができます。

また、間取りの見直しから設備の更新まで、将来の介護に備えた対応を一括して行えるため、後々の部分的な改修の手間や費用を抑えられます。さらに、工事期間を集中させることで、生活への影響を最小限に抑えられる利点もあります。

住まいの部分的な改修ではなく、間取りなども含めた大規模な改修をご検討中の方は、ぜひ以下の記事も合わせてご参照ください。

事例のご紹介

実際に、60代からのリノベーションに取り組まれた方の事例をご紹介します。

【事例1】この先もずっと暮らしやすい住まいへのリノベーション

BEFORE

AFTER

ご両親から譲り受けた3階建ての重量鉄骨造の空き家をリノベーションした事例です。もともと1階は工場、2・3階は住居でしたが、すべての階を住居スペースへと造り変えつつ、老後も見据えてバリアフリーを重視した住まいへとフルリノベーションしました。

広々としたリビングでは、お客様をお迎えして楽しい時間を過ごせるように、5人分がゆったりと座れるソファを設置。完全オーダーメイドのオリジナルソファのため、お客様と打ち合わせを重ねて、立ったり座ったりがしやすい高さで制作しました。

まとめ

60代からのリフォーム・リノベーションは、快適な老後の住まいづくりの第一歩です。

断熱性・気密性の向上や、浴室・トイレの快適さの向上といった今の暮らしを快適にするための改善だけでなく、バリアフリー化や車いすでも移動しやすい余裕のある間取りへの変更と言った10年・20年先を見据えた改善も併せて計画する事が成功のポイントになります。

費用対効果を考慮しながら、優先順位をつけて段階的に進めるのも良いでしょうし、体力があるうちに20年先までを見据えてフルリノベーションに取り組むのも将来への賢い投資と言えるでしょう。

快適で過ごしやすい我が家で、いつまでも安心して暮らせる住環境を整えることが、充実したセカンドライフの基盤となります。

SOWAKAでは、60代からのリフォーム・リノベーションについてのご相談を随時承っています。どうぞお気軽にお問い合わせ下さい。

この記事の監修者

sugiyama

杉山幸治(株式会社SOWAKA)

一級建築施工管理技士

1977年生まれの瀬戸市育ち。建築工学科を卒業後ゼネコンに入社し、ビルやマンション建築の現場監督からはじまり、気付けば業歴27年。
20代はコンクリートと鉄骨に情熱を注ぎながら資格試験の勉強に没頭し、30代はコンクリートの社寺建築と木造での増築という難易度の高い現場などを経験しているうちに、どんな構造でもディレクションができるようになりました。中古住宅のリノベーションを軸に理想の住まいづくりをする会社の責任者として活動しています。