建物インスペクション(建物調査)で住まいにまつわるトラブルを賢く回避しよう
執筆監修:杉山幸治(株式会社SOWAKA・一級建築施工管理技士)
執筆監修:杉山幸治(株式会社SOWAKA・一級建築施工管理技士)
中古住宅を購入したり、すでに保有している住宅をリフォームやリノベーションする際に、家の傷み具合や欠陥がないかを確認するために行う建物インスペクション(建物調査)。
「新築で買った住まいが欠陥住宅だった…。」とか、「住まいの改修工事に着工した後で思わぬ問題が見つかり工事のスケジュールが遅延して余計な費用が発生してしまった…。」というようなトラブルを回避するためにも、インスペクションの重要性や、調査から診断までの流れ、費用についてしっかりと知識を得ておくことが重要です。
この記事では建物インスペクションの診断項目や診断のながれ、費用の目安などについて詳しく解説します。
建物インスペクション(建物調査)とは?

建物インスペクションとは、専門の資格を持った住宅診断士が、建物のあらゆる箇所をくまなく調べ、その状態を客観的に評価する調査のことです。壁や床、屋根といった目に見える部分だけでなく、配管や電気配線など、普段は見えない隠れた部分まで丁寧に調べます。まるで人間ドックのように家の隅々まで診断することで、劣化状況や欠陥の有無を明らかにします。
建物のインスペクション(住宅診断)は、既存住宅状況調査技術者の資格またはJSHI公認ホームインスペクター(住宅診断士)の資格を持った専門家が行います。
中古住宅を購入する場合は不動産会社がインスペクション業者を斡旋してくれるので、土地建物を探しながらリノベーション会社ともコンタクトを取って金融機関もさがして・・・という忙しい時期にわざわざ探さなくても良い場合が多いです。 どうしても調査結果に納得ができない場合や複数の業者に診断をしてもらいたい方は依頼をしてみましょう。
新築住宅のインスペクション
新築住宅の場合は、施工ミスや隠れた欠陥がないかを確認するために住宅診断が役立ちます。施工会社とは別の第三者機関による診断なので、客観的な評価を得ることができ、安心して新生活をスタートできます。
新築の場合は瑕疵担保保険会社の検査や中間検査、完了検査もあるので最低でも2名の建築士が第三者機関による検査があるので、工事中に施工会社とトラブルがあって不信感を持たない限りはインスペクションやGメンにお願いすることは少ないです。
中古住宅のインスペクション
中古住宅の購入を検討している場合は、購入前に住宅診断を行うことで建物の状態を把握し、将来発生する可能性のある修繕費用を予測することができます。購入後に思わぬ劣化や欠陥が見つかり、高額な修繕費用が必要になるといった事態を避けるためにも、住宅診断は重要な役割を果たします。
また、リフォームやリノベーションを検討している場合も、最初に住宅診断を行うことで、建物の構造や劣化状況を把握し、より適切な工事計画を立てることができます。無駄な工事や費用を抑え、効果的なリフォームを実現するためにも住宅診断は欠かせません。
診断後には、詳細な報告書が作成されます。報告書には建物の劣化状況や欠陥の有無だけでなく、修繕が必要な箇所とその費用の概算、今後のメンテナンス方法など、家の状態に関する様々な情報が記載されています。この報告書を参考に、今後の住まい計画を立てることができます。長く安心して快適に暮らすためにも、住宅診断を積極的に活用しましょう。
診断対象別・インスペクションの目的
診断対象 | 住宅診断の目的 | 診断内容 | メリット |
---|---|---|---|
新築住宅 | 新築住宅の施工ミス・隠れた欠陥確認 | 壁、床、屋根、配管、電気配線など隅々まで | 客観的な評価で安心できる新生活スタート |
中古住宅 | 中古住宅購入前の状態把握と修繕費用予測 | 高額な修繕費用の発生リスク回避 | |
リフォーム検討住宅 | リフォーム前の構造・劣化状況把握 | 適切なリフォーム計画策定、無駄な工事・費用抑制 |
主な診断項目

インスペクションでは、以下のような項目が詳しく検証されます。
診断の重要性

建物インスペクションは日本では比較的新しい概念ですが、耐震強度偽装問題や欠陥住宅問題など建築に関する深刻な社会問題が相次いで発覚したことを契機に、その重要性が広く認識されるようになりました。現在では中古住宅の購入時だけでなく、新築工事の施工品質確認や、既存住宅の定期的な点検としても活用されるケースが増加しています。
建物インスペクションを実施することで、予期せぬ修繕費用の発生を防いだり、安全性に関する不安を解消したりすることができます。また、売買交渉における適正価格の判断材料としても重要な役割を果たします。住宅という人生最大の買い物をする際の、いわば「保険」としての役割を担っているのです。
このように、建物インスペクションは住宅に関する重要な意思決定をサポートする、現代の住宅市場には不可欠なサービスとして確立されつつあります。
家の寿命を延ばし、快適な暮らしを維持するためにも、家の診断は欠かせないものとなっています。家の健康診断を受けることで、安心して暮らせるだけでなく、将来発生するかもしれない大きな費用負担を避けることにも繋がります。定期的に家の状態をチェックし、適切なメンテナンスを行うことで、大切な家を長く守ることができます。
建物インスペクションのメリットや効果
建物インスペクションよって得られるメリットやプラスの効果については、以下のようなものが挙げられます。
家の種類 | 診断のメリット | 診断による効果 |
---|---|---|
中古住宅 | 隠れた問題の早期発見、購入判断材料、価格交渉の材料 | 大きな損傷や致命的な欠陥の回避、高額な修理費用の回避、建物価値の客観的評価 |
新築住宅 | 工事のミス・欠陥の確認、安心な新生活 | 工事ミスによる問題の早期発見や致命的な欠陥の回避、建物価値の客観的評価 |
すべての家 | 家の寿命延長、快適な暮らしの維持、費用負担の回避 | 適切なメンテナンスによる家の維持、工事の優先順位付け |
新築、中古いずれの場合においても、できるだけ早い段階で潜在的な問題点を把握し、適切な対処を行う事で、住まいの寿命を延ばし長く快適に暮らす事が可能になります。
また、将来の売却を見越した資産的な視点においても、建物インスペクションによって建物価値の客観的評価を得る事は大きな意味があると言えるでしょう。
建物インスペクション診断の流れ
家の診断は、以下のような手順で行われます。

1.診断業者の選定
まず初めに、診断を行う業者を選ぶことから始まります。業者を選ぶ際には、資格の有無やこれまでの実績、費用などをじっくり比較検討することが大切です。信頼できる業者を見つけることが、正確な診断結果を得るための第一歩です。
2. 診断日程の決定
次に、選んだ業者と連絡を取り、診断の日取りを決めます。都合の良い日時を業者と相談し、現地調査の日程を調整します。
3. 現地調査の実施
診断当日には、診断員が家に来て建物の内外を隅々まで調べます。診断員は、目視で確認するのはもちろん、専用の道具を使って細かい部分まで丁寧に調査します。診断にかかる時間は、家の大きさや状態によって変わりますが、通常は数時間程度かかります。
4. 診断結果報告書の作成
調査が終わると、診断員が調査結果をまとめて報告書を作成します。報告書には、家の劣化具合や不具合の有無、修理が必要な箇所とその費用の目安などが詳しく書かれています。
5. 診断結果報告書の確認と修繕の必要性の判断
報告書の記載事項について、内容をよく確認したうえで工事の必要性や緊急度などについて判断します。この報告書は、今後の家のメンテナンス計画を立てる上で非常に重要な資料となりますので、保管しておくと良いでしょう。
6. (必要に応じて)工事業者の選定
報告書の内容を確認し、もし修理が必要だと判断した場合は、業者に見積もりを依頼し、工事内容や費用について相談しましょう。
家の状態を正確に把握するためには、専門的な知識と経験を持つ信頼できる業者に診断を依頼することが大切です。業者選びに迷った場合は、家の診断に関する相談窓口に相談することもできます。適切な家の診断を行うことで、家の状態をきちんと理解し、安心して暮らすことができます。
建物インスペクションの診断費用はどれぐらい?

家の状態を詳しく調べるための診断にかかるお金は、家の大きさや建てられた年、調べる内容によって変わってきます。
一般的には、5万円~10万円ほどが目安です。一戸建ての場合、家の床面積が広ければ広いほど、費用は高くなる傾向があります。マンションなどの集合住宅の場合は、一戸建てに比べると費用が安く済むことが多いです。
古くからある家は、傷んでいるところが多くなっている可能性があるため、調べる項目が増えて、費用も高くなる傾向があります。また、地震に耐えられるかどうかの診断や、石綿の調査など、特別な調査を追加する場合は、別途費用がかかることがあります。診断の費用には、実際に家に行って調べる費用や、結果をまとめた書類を作る費用などが含まれています。業者によっては、交通費や出張費が別途かかる場合もあるので、前もって確認しておくことが大切です。
家の診断は、家の状態を正しく理解し、安心して暮らすために必要な費用です。費用を抑えるためには、いくつかの業者から見積もりをもらって、比べることが大切です。値段だけでなく、診断の内容や結果をまとめた書類の質なども考えて、信頼できる業者を選びましょう。
家の診断は、将来かかるかもしれない修理費用を減らすためにも役に立ちます。最初に費用はかかりますが、長い目で考えると、家の診断はかけた費用以上の効果が得られると言えるでしょう。建物の劣化具合によっては、補修や改修が必要になる場合もあります。その際にかかる費用も考慮に入れて、総合的に判断することが重要です。
建物インスペクションの費用に関するまとめ
項目 | 内容 |
---|---|
診断費用の目安 | 5万円~10万円(戸建て) ※家の大きさ、築年数、診断内容により変動 |
費用の変動要因 | ・床面積:広いほど高額 ・築年数:古いほど高額 ・建物の種類:一戸建て>集合住宅 ・追加調査:耐震診断、石綿調査などは別途費用 |
費用内訳 | 調査費用、報告書作成費用、交通費・出張費(業者によっては別途) |
業者選定 | 複数業者から見積もりを取得し、価格・診断内容・報告書の質を比較 |
診断のメリット | 家の状態の把握 将来の修繕費用抑制 |
その他 | 診断結果に基づき、補修・改修費用も考慮し総合的に判断 |
まとめ
建物インスペクションとは、建築や設備の専門資格を持った調査員が、建物の状態を専門的な観点から徹底的に調査・診断するサービスです。具体的には、建物の構造的な安全性、設備の稼働状況、劣化状態、修繕の必要性などを総合的にチェックし、客観的な評価を提供します。
近年では、日本でもインスペクションの重要性が認識されつつあり、中古物件だけでなく新築物件でも検査・診断を受ける方が増えています。。
住宅購入時や、リフォーム・リノベーション実施の際にはインスペクションを活用することで住まいの寿命を延ばし、安心して暮らせる住まいを手に入れる事が可能になります。
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この記事の監修者

杉山幸治(株式会社SOWAKA)
1977年生まれの瀬戸市育ち。建築工学科を卒業後ゼネコンに入社し、ビルやマンション建築の現場監督からはじまり、気付けば業歴27年。
20代はコンクリートと鉄骨に情熱を注ぎながら資格試験の勉強に没頭し、30代はコンクリートの社寺建築と木造での増築という難易度の高い現場などを経験しているうちに、どんな構造でもディレクションができるようになりました。中古住宅のリノベーションを軸に理想の住まいづくりをする会社の責任者として活動しています。