住まいの生活動線をバリアフリー化して、安全で安心な空間にリフォーム
執筆監修:杉山幸治(株式会社SOWAKA・一級建築施工管理技士)
執筆監修:杉山幸治(株式会社SOWAKA・一級建築施工管理技士)
高齢者や障がいのある方だけでなく、すべての世代が快適に暮らせる住まいを実現するためにバリアフリーリフォームをされる方が増えています。
段差の解消や手すりの設置、滑りにくい床材の採用など、安全で安心な生活動線を確保することで、転倒リスクを減らし、日々の暮らしがスムーズになります。本記事では、バリアフリーリフォームの具体的な方法やポイントを詳しく解説し、快適で安心な住まいづくりのヒントをご紹介します。
段差のない空間づくり

住まいの安全性を高めるためには、家の中の段差をなくすことが重要です。特に、お年寄りや小さなお子さんにとって、段差はつまづきや転倒の大きな原因となります。将来を見据え、段差のないバリアフリーな空間を作ることで、安心して暮らせる家を実現できます。
まず、玄関の段差は解消しておきたい場所です。上がりかまちにスロープを設置することで、車椅子やベビーカーの移動も楽になります。また、玄関の床の高さを調整する方法もあります。玄関土間と廊下の高さを揃えることで、段差をなくし、フラットな空間にすることができます。
浴室も段差をなくすことで安全性が向上します。浴室の床と脱衣所の床の高さを揃える、または、ゆるやかな傾斜のスロープを設置することで、高齢者の方でも安心して入浴できます。また、浴槽の出入りも、またぎの低い浴槽を選ぶ、あるいは手すりを設置することで、安全性を高めることが大切です。
トイレも段差をなくすことで使い勝手がよくなります。床の高さを調整することで、車椅子での利用もスムーズになります。また、手すりを設置することで、立ち座りの動作をサポートし、安全性を高めることが可能です。
廊下や居間といった場所も、床の段差をなくすことで、移動が楽になります。つまずきの心配がなくなり、車椅子や歩行器を使う場合もスムーズに移動できます。段差のない空間は、見た目にも広く感じられ、開放的な印象を与えます。
段差のないバリアフリーな住まいは、安全で快適な暮らしを実現するための重要な要素です。リフォームの際には、段差解消を積極的に検討し、より暮らしやすい住まいづくりを目指しましょう。
エリア別段差解消方法まとめ
場所 | 段差解消方法 | メリット |
---|---|---|
玄関 | スロープ設置 玄関土間と廊下の高さを揃える | 車椅子・ベビーカー移動が楽 フラットな空間 |
浴室 | 浴室と脱衣所の床の高さを揃える ゆるやかな傾斜のスロープ設置 またぎの低い浴槽 手すり設置 | 高齢者も安心入浴 安全な浴槽の出入り |
トイレ | 床の高さを調整 手すり設置 | 車椅子利用がスムーズ 立ち座りサポート |
廊下・居間 | 床の段差をなくす | 移動が楽 開放的な印象 |
参考事例
滑りにくい床材の導入
バリアフリーリフォームを考える際、床材の選定は非常に重要なポイントです。特に「滑りにくい床材」を選ぶことで、高齢者や小さな子ども、身体の不自由な方が安心して生活できる環境を整えることができます。家庭内での転倒事故は、骨折やケガの原因となるだけでなく、長期的な介護が必要になるリスクもあるため、早めの対策が大切です。
滑りにくい床材の種類と特徴

クッションフロア
クッションフロアは、適度な弾力があり、転倒時の衝撃を和らげる効果があります。さらに、防水性にも優れているため、キッチンや洗面所、トイレなどの水回りにも最適です。滑りにくさと掃除のしやすさを兼ね備えており、バリアフリーリフォームに人気の床材の一つです。
ノンスリップ加工フローリング
一般的なフローリングは滑りやすい素材のものもありますが、ノンスリップ加工が施されたタイプを選ぶことで、摩擦力が高まり、滑りにくくなります。また、耐水性や防汚性にも優れた商品が多く、リビングや廊下など幅広い場所で使用できます。
コルクタイル
コルクは天然素材で、弾力性があり、歩行時の衝撃を吸収してくれます。表面には細かい凹凸があるため、滑りにくく、安全性が高いのが特徴です。また、冬場でも足元が冷たくなりにくく、快適に過ごせるメリットもあります。

畳風の樹脂素材(樹脂畳)
従来の畳は経年劣化によるささくれや滑りやすさの問題がありましたが、樹脂製の畳であれば、耐久性が高く、滑りにくい仕様になっています。和室をバリアフリー化したい場合におすすめの床材です。

引用元:東リ
滑り止め素材
玄関や浴室などの水に濡れやすい場所には、滑り止め加工が施された素材やタイルを使用することで、転倒リスクを軽減できます。特に浴室では、水分を含んでも滑りにくい表面加工が施されたものを選ぶと安心です。
床材選びのポイント
- 部屋の用途に合った床材を選ぶ
リビングや廊下にはフローリングやクッションフロア、キッチンや浴室には防水性のある床材など、使用する場所に応じた素材を選ぶことが重要です。 - 適度なクッション性を確保する
万が一転倒した際に衝撃を和らげるクッション性のある床材を選ぶことで、ケガのリスクを減らせます。特に高齢者のいる家庭では、衝撃吸収性を考慮すると安心です。 - 掃除やメンテナンスのしやすさも考慮する
滑りにくい床材は、安全性だけでなく、掃除のしやすさも重要です。ホコリや汚れが溜まりにくく、手入れが簡単な素材を選ぶことで、長く快適に使用できます。
バリアフリーリフォームにおいて、床材の選び方一つで安全性が大きく変わります。滑りにくい床材を取り入れることで、転倒事故を防ぎ、誰もが安心して暮らせる住環境を実現できます。フローリングやクッションフロア、コルクタイルなど、それぞれの特徴を理解し、ご家庭の状況に合った最適な床材を選びましょう。適切なリフォームを行うことで、将来的な介護負担の軽減にもつながります。ぜひ専門家に相談しながら、安全で快適な住まいづくりを進めてみてください。
移動のしやすさについて

家の中を移動する際の動線は、日々の暮らしの質に直結します。スムーズな動線は、ストレスを減らし、快適な生活を送る上で欠かせない要素です。リフォームを検討する際には、動線を念頭に置いて計画を立てることで、より快適な住まいを実現できます。
まず、朝起きてから夜寝るまで、普段どのように家の中を移動しているか、具体的に思い描いてみましょう。キッチンから食事の場への移動、寝室からお手洗いへの移動など、日々の行動を一つ一つ思い浮かべながら、現在の動線に問題がないか、スムーズに移動できているか、動線を妨げるものはないかなどを確認してみることが大切です。例えば、家具の配置を変えるだけで移動が楽になることもありますし、廊下を少し広げるだけで移動がスムーズになることもあります。このように、日々の生活をシミュレーションすることで、リフォームすべき点が明確になります。
また、家族構成や生活スタイルの変化に合わせて、動線を考えることも重要です。高齢のご家族や小さなお子さんがいる場合は、段差をなくしたり、手すりを設置するなどの工夫が必要です。段差につまずいて怪我をする危険性を減らし、手すりがあれば移動の支えになります。また、将来、家族が増える可能性や、介護が必要になる場合なども想定し、将来の生活の変化にも対応できるような動線を計画することが大切です。生活の変化に柔軟に対応できる家は、長く快適に暮らせる住まいを実現する上で重要な要素となります。
さらに、収納場所の位置も動線に影響を与えます。例えば、よく使う日用品は、取り出しやすい場所に収納することで、家事の効率が上がり、移動の手間も省けます。季節の衣類なども、適切な場所に収納することで、衣替えの際の負担を軽減できます。収納と動線を一体的に考えることで、より効率的で快適な住まいを実現できるでしょう。
移動のしやすさから見るリフォームのポイント
リフォームのポイント | 具体的な内容 | 効果 |
---|---|---|
現状の動線確認 | 朝起きてから夜寝るまでの行動を思い描き、キッチン、寝室、お手洗いなどへの移動における問題点や改善点を洗い出す。家具の配置、廊下の広さなども確認。 | スムーズな移動、ストレス軽減、快適な生活 |
家族構成・生活スタイルへの対応 | 高齢者や子供がいる場合は、段差の解消や手すりの設置を検討。将来の家族構成の変化や介護の必要性も想定。 | 安全性向上、移動のサポート、将来の生活変化への対応 |
収納場所の位置 | よく使う日用品は取り出しやすい場所に、季節の衣類は適切な場所に収納。 | 家事効率向上、移動の手間削減、衣替えの負担軽減 |
通路と出入り口の幅について

家の中を安全に、そして快適に移動するために、通路と出入り口の幅は暮らしの質を大きく左右する重要な要素です。窮屈な通路では、人とすれ違う際に肩がぶつかったり、大きな家具を移動する際に壁に傷をつけてしまったりと、不便を感じることが多くなります。また、出入り口の幅が狭いと、大きな荷物や家具の搬入出が困難になるだけでなく、万が一、車椅子が必要になった場合、生活に支障が出る可能性も出てきます。
快適な動線を確保するためには、通路の幅は最低でも85cmは欲しいところです。ただし、柱などの出っ張りがある場所では80cmでも許容されます。出入り口は80cm以上の幅を確保することで、車椅子の通行もスムーズになり、生活の自由度が格段に向上します。ここで注意しておきたいのは、これらの数値は扉を開けた状態での実際の通行可能な幅を表しているということです。開き戸の場合は、扉を90度に開いた状態で、実際に人が通れる幅を測る必要があります。
家を新しく建て直すことは容易ではありませんが、リフォームであれば、比較的簡単に通路や出入り口の幅を広げることができます。特に、高齢者や車椅子利用者が今後生活する可能性がある場合は、将来を見据えて、ゆとりを持った幅を確保することを強くお勧めします。通路や出入り口の幅を広げることで、移動の負担を軽減し、安全で快適な住まいを実現できるだけでなく、万が一の事故を防ぐことにも繋がります。快適な住まいは、心身の健康にも良い影響を与えます。リフォームの際には、通路と出入り口の幅を念頭に置き、より快適で安全な住まいづくりを目指しましょう。
設置場所別・扉の推奨幅
項目 | 推奨幅 | 許容幅 | 備考 |
---|---|---|---|
通路 | 85cm | 80cm (柱などの出っ張りがある場合) | 人とすれ違ったり、家具の移動をスムーズにするため |
出入り口 | 80cm以上 | - | 車椅子での通行を考慮。扉を開けた状態での実際の通行可能幅。開き戸の場合は90度に開いた状態で測定。 |
ドアの種類と開閉方向について

住まいの快適さを大きく左右する要素の一つに、ドアの種類と開閉方向があります。ドアは単なる間仕切りではなく、動線や安全性、空間の有効活用に深く関わっているため、リフォームの際には慎重に検討する必要があります。ドアの種類には、大きく分けて開き戸、引き戸、折れ戸の三種類があります。
開き戸は、最も一般的なドアの種類で、内外に開閉するシンプルな構造です。しかし、開閉のために一定のスペースが必要となるため、通路幅が狭くなったり、家具の配置に制約が生じる場合があります。特に狭い空間では、ドアの開閉が邪魔になり、ストレスを感じることもあるでしょう。
一方、引き戸は、扉が壁に沿ってスライドするタイプのドアです。開閉スペースを必要としないため、限られた空間でも有効活用できます。また、開閉動作がスムーズで、高齢者や子供にも使いやすいというメリットがあります。ただし、壁の中に収納スペースが必要となるため、設置場所によっては壁の補強工事が必要になる場合もあります。
折れ戸は、複数の扉が折り畳みながら開閉するドアです。開き戸と引き戸の中間的な存在で、開閉スペースを最小限に抑えられます。開口部を広く取れるため、大きな家具の搬入にも便利です。しかし、気密性や遮音性がやや劣るというデメリットもあります。
ドアの開閉方向も重要なポイントです。一般的に、部屋の出入り口は内開きが主流ですが、トイレや浴室などの場合は、外開きにすることをお勧めします。万が一、室内で人が倒れてしまった場合、内開きのドアでは外部から開けるのが困難になり、救助が遅れる可能性があります。外開きであれば、そのような事態でも迅速な対応が可能です。
リフォームの際は、それぞれの場所の用途や広さ、家族構成などを考慮し、最適なドアの種類と開閉方向を選びましょう。快適な住まいを実現するためには、細部までこだわることが大切です。
ドアの種類別特徴
ドアの種類 | メリット | デメリット | 設置に適した場所 |
---|---|---|---|
開き戸 | 最も一般的でシンプルな構造。 安価。 | 開閉スペースが必要。 狭い空間では邪魔になることも。 | 一般的な部屋の出入り口 |
引き戸 | 開閉スペース不要。 高齢者や子供にも使いやすい。 限られた空間を有効活用できる。 | 壁の中に収納スペースが必要。 設置場所によっては壁の補強工事が必要な場合も。 | 狭い空間、高齢者や子供のいる家庭 |
折れ戸 | 開閉スペースを最小限に抑えられる。 開口部を広く取れる。 | 気密性や遮音性がやや劣る。 | 大きな家具の搬入が必要な場所 |
設置場所別・扉の開閉方向
開閉方向 | 適した場所 | 想定リスク |
---|---|---|
内開き | 一般的な部屋の出入り口 | ・扉の向こう側に人がいると、開閉時にぶつかる危険がある |
外開き | トイレ、浴室など | ・室内で万が一倒れたりした際に、開閉ができない |
参考事例
照明計画の重要性

住まいをより良く変えるリフォームにおいて、照明計画はとても大切です。ただ部屋を明るくするだけでなく、暮らしやすさや雰囲気づくりにも大きく関わります。適切な照明計画は、安全な移動を助けるだけでなく、くつろぎの空間を演出し、より快適な住まいを実現する鍵となります。
まず、安全性の確保という点では、廊下や階段など、暗くなりがちな場所への配慮が重要です。これらの場所では、足元を照らす照明を設置することで、つまずきや転倒を防ぎ、安全な移動をサポートします。特に、高齢者や小さなお子様がいる家庭では、このような配慮がより重要になります。夜中にトイレに行くときなどにも、足元灯があると安心です。
次に、空間の雰囲気づくりも照明の重要な役割です。部屋全体を明るく照らす主照明だけでなく、間接照明を効果的に取り入れることで、落ち着いた雰囲気や奥行きのある空間を演出することができます。例えば、壁際に間接照明を設置することで、壁の質感や色合いを強調し、空間に立体感を与えることができます。また、観葉植物などを照らすことで、自然な安らぎを与え、リラックスできる空間を作り出すことも可能です。
さらに、照明の色温度や明るさも空間の印象を左右する重要な要素です。暖かみのあるオレンジ色の照明は、リラックスした雰囲気を作り出し、食事や団らんの時間をより豊かに演出します。一方、青白い照明は、集中力を高めたい書斎や作業スペースに適しています。このように、それぞれの場所に合った色温度と明るさを選ぶことで、より快適な空間を実現することができます。
リフォームの際には、専門家への相談もおすすめです。生活スタイルや好みに合わせて、最適な照明プランを提案してもらうことで、より満足度の高いリフォームを実現できます。照明計画は、単に器具を選ぶだけでなく、配置や配線なども考慮する必要があるため、専門家の知識と経験が役立ちます。快適で安全な住まいを実現するために、照明計画にもしっかりとこだわりましょう。
重視する項目別の照明計画
重視する項目 | 期待できる効果 |
---|---|
安全性 | 廊下や階段など暗くなりがちな場所に足元灯を設置することで、つまずきや転倒を防止。高齢者や子供がいる家庭では特に重要。 |
雰囲気づくり | 間接照明を効果的に使用することで、落ち着いた雰囲気や奥行きのある空間を演出。壁際の間接照明は壁の質感や色合いを強調し、立体感を演出。観葉植物を照らすことで自然な安らぎを提供。 |
色温度と明るさ | 暖色系の照明はリラックスした雰囲気を、青白い照明は集中力を高める効果。場所に合わせた色温度と明るさで快適な空間を実現。 |
専門家への相談 | 生活スタイルや好みに合わせた最適な照明プランの提案を受けられるため、リフォームの満足度向上に繋がる。配置や配線など専門家の知識と経験が役立つ。 |
参考事例
まとめ
バリアフリーリフォームを取り入れることで、家族全員が安心して暮らせる住まいを実現できます。ちょっとした工夫や設備の導入で、生活動線の安全性が向上し、将来的な介護負担の軽減にもつながります。リフォームを検討する際は、専門家に相談し、自宅の状況に合った最適なプランを選びましょう。今のうちから快適な住空間を整え、誰もが暮らしやすい家づくりを目指しましょう。
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この記事の監修者

杉山幸治(株式会社SOWAKA)
1977年生まれの瀬戸市育ち。建築工学科を卒業後ゼネコンに入社し、ビルやマンション建築の現場監督からはじまり、気付けば業歴27年。
20代はコンクリートと鉄骨に情熱を注ぎながら資格試験の勉強に没頭し、30代はコンクリートの社寺建築と木造での増築という難易度の高い現場などを経験しているうちに、どんな構造でもディレクションができるようになりました。中古住宅のリノベーションを軸に理想の住まいづくりをする会社の責任者として活動しています。